今回は、クリスマスに向けて”うちなーろーど”の番外編です。以前にNOVELDAYSというサイトで書いていたものを加筆訂正しました。
「もう禁煙したら」ベランダにいる僕にいつもの小言だ。「入院するような病気でもしたら止めるわ」その気のない僕の返事だ。「それより、そろそろクリスマス準備せなあかんな」と、話を逸らしながらベランダを見渡す。僕の思惑に気付きながら、妻も返す。「そやねぇ、サンタさんのプレゼントは煙草何日分やー」と、窓を閉める。
お兄ちゃんは幼稚園のせいでサンタクロースの正体に気付き始めたようだが、まだ信じ切っている弟がいて、”サンタ演出”は続けている。
「サンタさんには、ベランダから入るようにお願いしてある」と子供たちに伝えた上で、イブの翌朝にはベランダのプランターが少しズレていたり、洗濯物のタオルが落ちていたり、窓際に残された少し泥のついた長靴の足跡を見つけて、子供達が大興奮するようになっている。
我が家の収入では本物のツリーを買えないけど、観葉植物のベンジャミンに100均で買った飾りを付けて、白い綿を乗せて銀のモールで巻いたら、クリスマスツリーの完成だ。サンタさんへのお願いは、七夕のように短冊に希望のおもちゃを書いて枝に吊るすシステムだ。
「あんまり高いのはあかんで、サンタさんは世界中の子どもたちに配ってるからな。そやな、まぁ3,000円くらいまでかなぁ」サンタを演出する親のリアルだけど、案外、納得してくれている。
だけど、すぐに『どんなん書いていいか、わからへんわ』と言い、「じゃぁ、今年は書かんとくか?」と応えると、弟の方は泣き出す。お兄ちゃんは冷静に『でも、値段とか知らんし』と、呟く。そこで、僕が「せやったら、おもちゃ屋に行って、欲しいの見に行こうか? 値段もわかるし」と、親の理想の流れに持っていくと、クリスマスイブには子供達が欲しがっていたおもちゃが、”サンタさん”から届くことになる。

ショッピングモールのおもちゃ売り場に着くと、二人は僕の予想通りに「特急電車」が置いてある売り場の方へ走って行った。キャラ新幹線が発売されたばかりで(アレなら予算内)と安心していたが、弟の方がレールを外れてしまった。
お兄ちゃんを追いかける途中で、見つけたおもちゃの前で立ち止まってしまったのだ。 弟の視線の先にはランドセルくらいの大きさの模型があり、山やトンネルのあるコースを消しゴムみたいな電車が1両で走っていて山の上までベルトで運ばれた小さな車両がコースを降りてくるだけだ。
(こんなん!)と一瞬思ったけれど、一緒にしばらく眺めていると、まあまあ楽しい。急に弟の声がした『これがいいわ、なんて名前やろ?』値札を見て名前を調べるよう言ってある。「!」『?!』弟の背中越しにのぞき込むと、親の気まで引くだけあって、可愛い見た目と裏腹に、お値段は可愛くなかった。『これ5やんな、サンタさんアカンかなぁ・・』先頭が「1」や「2」でない値札を見ると泣きそうな顔になったまま山を登る電車を見ている。
「ほかのヤツ探しにいこか」(いたたまれなくなって)僕が声をかけると、『もうちょっと見てる』と、弟が答えた。心が痛いけれど、欲しがるままにして金額がエスカレートしていかないように3,000円ラインを守らねばと考えていると、 いつの間にか、お兄ちゃんが隣に立っていた。手には欲しい電車の名前をメモした紙を握っているようだ。
『これが欲しいんか?』お兄ちゃんが弟に聞く、弟が応える『うん』、『じゃぁ、ちゃんと名前書いときや。”やまのガタゴトでんしゃ”やで』『でも、高いねん』、泣きそうな弟に、『兄ちゃんは”Uターンレール”って書いたるわ。あれやったら安いから。二人分合わしたら、これが高くてもサンタさん買ってくれるんちゃうかなぁ・・こんなん無理かな?』お兄ちゃんが僕の方を振り返り心配そうな顔で見る。
「たぶん、大丈夫ちゃうか。木に結ぶ時に二人の短冊を一緒に留めとくわ」なりゆきを聞いていた弟は、望みが叶ったのに泣きそうな顔をしている・・・いや、泣き出した。お兄ちゃんの胸に額だけくっつけて『ありがとぉ、にいちゃん』と泣きじゃくる。『いいよ』お兄ちゃんはポケットにメモを押し込んで弟の背中を優しく叩く。
お兄ちゃんの優しさが誇らしく、ちょっと感動していたら、隣で妻も困ったような嬉しいような顔をしていた。
フードコートでラーメンを待つ間に、二人は短冊に商品名を書いている。「ちょっと、父ちゃん煙草吸うて来るからな」そう言って僕はフードコートを抜けて、大急ぎでおもちゃ売り場に戻りサンタのショッピングカートにプレゼントを入れていく。いつもならワクワクするコッソリ作業なのに、お兄ちゃんの”Uターンレール”を載せた時は複雑な気持ちになった。
カートを押してレジに並んでいると、息を切らした妻がやって来てカートの隙間に「キャラ新幹線」を押し込んだ。「サンタさんは、優しい気持ちに弱いやろ」そう呟いた妻の言葉が胸を衝いて、「俺も禁煙するわ」訳もわからず口走ってしまった。(あ、ヤバいと思ったが)急いでフードコートに戻りかけた妻が一瞬立ち止まり、プレゼントを受け取る仕草をした。


