沖ハマりの日常 vol.39

沖ハマりの日常

去年は沖縄に行ったから今年はどこに行こう」なんて、言っていたはずなのに
「北海道がいい」とか「ネズミの国」がいいとか言ってたはずなのにー
気がついたら那覇空港にいてしまうような沖縄好きの戯言です。

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№94 早く立ち去らないと不審者と思われそう

ちょっとした贅沢な気分でワンコインを奮発してプレミアム特急券を買って電車に乗り込んだ。学生で混雑する車両を避けたかったのは僕だけじゃなかったのか平日だというのに意外に座席は埋まっていたけど、運よく一人掛けの席を確保できた。
「あった、あった、キタダニってところ」僕の座席と通路を挟んだ隣の二人掛けの席で若いOL?風の女性たちが二人で雑誌を指さしている。「どの辺にあった?」声につられてチラ見してしまったが、「るる」って見えたので旅行雑誌だろう。沖縄に肩入れする大人の悪い癖だろうけど、つい、旅行に行くなら沖縄が最高よ!なんて、言葉を送りたくなる。

「真ん中より、ちょっと下、”アメリカンビレッジ”って書いてある」

『沖縄かーい!チャタンかーい!』お嬢さんたち、”北谷”は「チャタン」って読むんだよぉ。チャタン⤴じゃないよ、チャタン⤵だよ。

彼女たちの会話に口出ししたい欲求と闘う。決して若いお嬢さんと話したい訳では断じてないけれど、北谷を「キタダニ」なんて読まれたら、靴の上から足を掻くようで気持ち悪い。

「美ら海水族館はホンブだって」ホンブ、ホンブって、おい!何の基地やねん!”本部”は「モトブ・モトブ・モトブなんやで」

ダメだ。見ず知らずの若い女性たちの会話に口を挟みそうになる、聞かない様にしないと危険だ。早く到着してくれ、ここを立ち去らないと危険だ!

「いま・き・じん? こん・きじん?かな」 (違ーーーうよ、「ナキジン」って読んでください。)聞きたくないのに若い女性の楽し気な声は耳に届いてしまう。特急電車の車内でいきなり声をかけたら、絶対に変な奴だと思われる、変なおっさんだと嫌な顔をされる、”される”のは分かる。
君たちが「チャタン、モトブ、ナキジン」と読んでいたなら、沖縄旅行の話題に嬉しい気分になったと思うけど、間違いだらけの会話にワジワジする。早くココから去らないと!と思ったら、いつの間にか「会話」を聞いてしまっている自分に気が付いた。

スーツの右のポケットからワイヤレスイヤホンを取り出し、少し音量を上げてAdoをかけた。

№95 その話を僕に聞くなら覚悟してくれ

転勤してきたばかりの若い後輩が次の連休に沖縄旅行に行くらしく、古参の僕が沖縄好きと聞いて声をかけてきた。
『沖縄にも世界遺産があるんですよね』「そうそう、グスクと関連遺産群やったかな、世界遺産に登録されてるよ」『グスクって、お城の事でしょう。ちょっと地図で見ましたけど、凄く沢山ありますよね』「グスクは確かに多いけど、世界遺産に登録されてるのは首里城を入れても5つかな」『え?でも首里城は焼失したんじゃ』「2019年10月31日やね、今でも朝のテレビ映像が焼き付いてるわ。あ、登録されたのは建物じゃなく、正殿の遺構だね。建物の基礎みたいな部分」『はぁ5つだけなんですね、そりゃそうか、写真で見ましたけど、どれも同じようなものですものね』

つい、彼に振り返ってしまった。「違う違う、同じじゃないよ」突然、正面に向き直られて少し驚いたようすの彼を無視して、僕は話し出す。「今帰仁城は、いわゆる”山城”だね、統一される前の北山の中心的な城だっただけに祭祀の場所と言うより砦としての城かな。”守り”の戦いに特化してる感があるかな。規模は全然違うのに長く続く城壁を見たら”万里の長城みたい!”って叫ぶと思うよ。

砦のような造りだけど谷を挟んで神様に通じる”御嶽”があるから、場内にも拝願所って祈りの場があって、グスクの祭祀としての側面を感じる事ができれば、内地のお城との違いを実感できるよ。ガイドさんに連れて行ってもらうのが良いと思うよ」

「次に座喜味城かな、ひと言で伝えるなら”美しい城”ですって言い方になるね。城壁が曲線で角のあたりが少し尖っているの。三国志とか水滸伝に出てきそうな中国のお城をイメージすると良いね。内地のお城の石垣には無いからね、”なんで角っこがとんがっているんだろう?”って調べてみたら、 ”見た目がカッコいいから” らしいよ。三国志の英傑に髭面な人が多いでしょ、あれと感覚的には近いのかなと思う。強そうとか怖そうって理由でしょ、あの髭面は。なんだか中国的だよね」

彼は多すぎる情報量を持て余しているようだったが、まだ、二つ残っている。

「ロケーションの美しさなら勝蓮城でしょう。あまわりパークって資料館が無い頃は、城壁の階段の下まで車で行けたんだけど、今は駐車場から歩かないと行けなくなりましたね。でも、グスクを回るなら行っておくべき城だと思います。
階段を登る時はどうしても下向き加減になるじゃないですか、だからこそ、登り切って顔を上げた時に広がる太平洋の広さと美しさ。下から見上げた時の城壁も素晴らしいけど、階段を上がって目の前に突然現れる景色に一瞬気を呑まれるから。前が海なんじゃなくて、周囲が海なの!景色の美しさに言葉が詰まるって、初めて知ったよ」

「中城は規模が大きいと言うのも魅力なんだけど、言うなれば ”歴史的建造物” だわけ。城壁の石の積み方には、自然石のまま積み上げる ”野面積み” や加工して積む ”布積み”、多角形に加工した石を積む ”相方積み” なんかがあるんだけれど、この中城ではそれらの技術の全てを見る事ができるの。それだけでも凄いでしょ。勝連城や座喜味城も手がけた稀代の天才築城家「護佐丸」を感じながら回ると、さらに楽しいと思うよ」

彼は、話を終わらせるタイミングを探っているようだった。

「それにね、世界遺産に登録された城だけでなくて、タマグスクは祭祀的な意味合いが強いところで、琉球七御嶽のひとつが場内にあるの。”浦添グスク ” なんて ”ようどれ資料館” のガイドさんと回ると、凄く面白くて、天孫”英祖王”と言った琉球古代史だけじゃなく、沖縄戦で有名な前田高地も近いから近代沖縄のツラさと哀しさも知る事で深い沖縄観光になると思うよ」

「それにね・・え?もう十分聞いたって」彼は、急いで僕の言葉を遮った。「ああ、ちょっと話が長かったかな?ゴメンね。まぁ、沖縄の事を僕に聞く時は気をつけてね、話が長くなるからね」

何人かの同僚がうなづいた。

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